2023年度 東大英語の解説です。
今回は大問1 (A)を、パラグラフリーディングで長文読解していきます!
長文の読み方の基礎を確認しながら、じっくり読んでいきます。
- 解答例だけささっと確認したい人
- 単語・文法力不足で、そもそも正確に英文が読めない人
には適さない内容となりますが、逆に
- 日本語訳はできるけど、なぜか問題が解けない人
- 長文読解を極めたい人
など、長文読解を得意にしたい場合はぜひ腰を据えて取り組んでみてください!
著作権の関係上、問題そのものは載せていません。インターネットで過去問を手に入れてもいいですし、赤本があれば読みづらかった文法箇所も全訳でチェックできるので、そちらを用意してもOKです!
問題は手元に用意してもらえたでしょうか?それでは解説ノートを見ていきましょう。
2023年度 東京大学 英語 大問1 (A)
◎大問1のキホンの考え方:段落ごとの内容・キーワードを見抜く!
→段落ごとに内容を掴んで読むと、
・要約なら…
減点につながる情報の過不足をなくすことができる
・空所補充なら…
英文を一度読んだだけで、適切な選択肢が選べる
まずはパラグラフリーディングを駆使して、ざっと長文の内容を通しで読んでいく。いったん理解してしまえば、読み終わった段階で書くべき内容が決まっている・解ける問題が多いはず!
第1段落
2010年代の話から始まっている。
一見すると「現代の話」に見えるが、読み始めは慎重さが肝心。
特に、どの時制が使われているかには注意できただろうか?
1文目は、よく見ると過去形=「過去の時代の話」なのである。
つまり、まさにこの今から始まる話は、あくまでも対比として引き合いに出されているだけの可能性がある。この後で論の流れを示すディスコースマーカーが置かれたときや、時制が変わるタイミングで絶対に気付けるように!という意識を持ちながら読むこと。
また、段落の後半以降で展開が大きくひっくり返るつもりでいること。すると、やはり「Now」以降でまず時制が変わる。そして新しい要素として「時間のなさ」という話題が登場する。
第2段落以降も基本的には同じ「現在形」「現在完了形」が使われている。話の流れがこの後一貫して続いていくということは、この部分がまさに本論のテーマに該当する。
「現代では時間の不足が人々を悩ませている」
特に青部分は、要約にも入れ込みたいキーワードだ。
第2段落
ここからは順接なので、どんどん読み進めていく。
第1段落では、筆者による「現代人の悩み」が提示された。
英文では、「意見」を提示した場合、その「理由」を必ずセットで述べるという明確な書き方のルールがある。
そのためここからは、「なぜ現代人はいつも時間が足りないと苦しんでいる(と筆者が考えている)のか?」を常に気にしながら読んでいけばOK。
第2段落では、比較が登場する。比較されているのは以下の2つの要素。
experiences > material goods
現代人は「消費行動による物質的な幸福」よりも、「経験による精神的な充足」をより得やすいことが読み取れる。
materialというそのままの単語が使われているので、マテリアリズム(物質主義。対義語は「精神主義」など)の背景知識があれば、さらに簡単に理解できるかもしれない。
この比較されている2つの概念が整理できたら、段落終わりまで普通に読み進めていってOK。
第3段落
第2段落で現代人の考え方が示され、この第3段落はいよいよ筆者が「これから理由を言いますよ~」と宣言する段落である。
「a number of reasons」が複数形であることを落ち着いて処理する。
具体的な理由の数はこの時点では示されていない(a number of~は「1つの」という意味ではない。もしこの熟語を知らない場合は、絶対に読めるようにしておくこと)ので、ディスコースマーカー(論の展開を示す目印となる言葉)を読み落とさず、1つ1つの理由を着実に読み取っていく必要がある。
言わずもがなではあるが、
- 複数あるはずの理由を1つでも取り落としたり
- 複数の理由をまとめて1つの理由として捉えたり
などの読み間違いが発生すれば、要約は当然不完全なものになる。
第4段落
「First」などの明確なディスコースマーカーはないが、順接であることから「1つ目の理由」が述べられる段落と思って読んでいく。
◎「while」の対比・譲歩
「while」の対比・譲歩(「~な一方」「~とはいえ」)の意味は必ず取れるようにしておくこと。読み方は以下。
- (接)whileがついている節(S+V)が、主張にならない(=弱いほうの)情報であり、対比されるほう、と思っておく
- するとwhileがついていない主節の「our spending~」以下が、今回読み取りたい(=重要なほうの)情報になる。ここで重要情報が理解・整理できたら、①で対比に使われた情報はもう忘れてしまってもOK。もし②がうまく読めない・理解できない場合は、①との概念の対比から内容を推測することもできる。
whileを「~する間」という訳でしか覚えていない場合は、絶対にこの読み方を押さえておくこと!
さて、このwhile構文を読み取っていくと、以下の情報がわかる。
- 寿命が延び、人が人生で費やせる時間は「ちょこっとだけ」増えた
- 消費力(=商品やサービスの購買力)は「とんでもなく」増えた
このことは、受験に向けて勉強している人であれば、ものすごく実感を伴って理解できるのではないかと思う。いわば、こういう矛盾である。
- 受験生になり、勉強に使える時間は1日あたり「何時間か」増えた
- 勉強すべき問題集や参考書の量は「とんでもなく」増えた
すると、「時間はまだまだ足りないのに、やりたいことが多すぎる!」というフラストレーションばかりが溜まる。
これと全く同じことが、「現代人」と「経験」を取り巻く関係で起きている、と考えればOK。
つまり、「現代人が時間不足で苦しんでいる」1つ目の理由は、
「ヒトの時間自体はそこまで増加していないのにも関わらず、モノやサービスを消費する力(=購買力)だけが極端に増加してしまった結果、相対的な時間不足を感じている」
ことにあると考えられる。
やはり青部分の要素は端的にまとめ、要約に入れ込みたい。
第5段落
1語目の「Next」は大事なディスコースマーカー。
当然、「論旨は同じ流れで、かつ新しい論点を追加する」ために置かれている。先ほどの第4段落では理由1が言われたので、この段落は理由2が述べられていくはずだ。
すると、「cellphone addiction」という新情報が登場する。
携帯電話の使用が、何かしらの悪影響を与えているはずだ。
正直、要約に必要な情報は「携帯電話依存」というキーワードだけでよい。なぜなら、それ以上の情報を収めようとすると字数が足りなくなってしまうからだ。
しかし、パラグラフリーディングの観点から、以下に第5段落の読み方を記しておく。長文の読み方を知りたいのではなく、ただこの問題が解ければよいという人は読み飛ばしても全く構わない。
段落中ほどの「contaminated time」という引用符に囲まれた単語に注目する。
通常、引用符に囲まれた単語は「作者が特定の意図を持って意味を付与している単語やフレーズ」を表す。
当然、直後には作者がどのような意図でその言葉を使っているのか、言い換えや補足の内容が来るはずだ。
つまり、ここでわざわざ「contaminatedの意味ってなんだっけ…?過去分詞だから…?」など、時間を費やして訳出する必要はない。後ろを見てみれば、早速「when」から「筆者が意図したのは『どんな時間』か?」の説明になっているので、そこを読んで理解すればOK。
その後ろにも、「contaminated time」の具体的な説明として「TVを見ながらSNSを使う」ような事例が書かれているので、この第5段落では「時間を有効活用して生産性を上げたいばかりに、同時にいろいろなことをやりすぎて逆に疲弊してしまう」現代人の姿が説明されていることがわかる。
第6段落
ものすごく短い段落である。
そして一瞬見ただけだと、かなり構造が取りづらい。
- 「add」が命令形(動詞の原形)
- 「to this」が動詞を修飾する副詞句
- 直後の「the ~ options」が他動詞addの目的語
つまりここは、「どんどん広がっている選択肢(の多さも)もこれに加えよ」という命令文になっている。
この3つ目の理由を要約に含めるかどうかについては、各大手予備校の解答例でも考えが分かれているようだ。おそらく理由は「this」の指し示す内容の不明瞭さと思われる。
「this」を「直前まで話されていた段落の内容」と考えるならば、あくまでもこの部分は2つ目の理由の補足情報としても捉えられるのである。
しかし、第2段落の決定的な「スマホ」という情報にあまり関連性のない話になっているため、第2の理由に加えて、さらに第3の理由が語られていると考えるほうが、個人的には妥当であると考える。
したがって、「現代人が時間不足に悩む」3つめの理由は
「娯楽の選択肢が増加していること」
とまとめることができる。繰り返すが、青字部分は要約にも入れ込みたい。
第7段落
冒頭にディスコースマーカーがない。
…「ない」ことにちゃんと気づけているだろうか?
「ない」ってことは、前の段落との論理的なつながりは「ない」。
つまり、理由は3つで終わりということである。
ここからはまとめっぽい話に入る。残念ながらこの段落では、要約に入れ込むべき内容は特にない。
「この時間不足現象は今後も続いていく」という筆者の見解と、その証拠となる事例がただ述べられているにすぎない。
しいて言えば、2行目の「factors」が複数形になっていることはきちんと読み取りたい。ここまで読んできて明らかではあるが、やはり「時間が不足している!」と感じさせる要因は複数あるということを確認しておこう。
第8段落
これまで筆者の意見とその理由を読んできたわけである。まとめとして、最後にはどんな情報が欲しいだろうか?
それは、「で、筆者の意見が正しそうってのはいったん納得するとして、結局それでどうなるの?」ということである。
これも大体の英文がそういう構造で書かれている、いわばクリティカルライティングの基礎ルールだ。
この最後の段落では、それが述べられている。読み進めていくと、3つの理由により「時間不足を感じた」人々は
- anxiousまたはdepressedになり、
- less likely to exercise or eat healthy foodsになり、
- less productive at workになる
ことがわかる。
すべてマイナスな要素で論理の破綻もなく、最後に欲しい情報「で、どうなるの?」としては全く申し分ない。
ただ、これらをすべて要約に入れ込むのは字数的に難しいため、1点目と2点目をまとめて「心身ともに不健康」などにするとよいだろう。3点目は「生産性の低下」など、素直にキーワードとして使用したほうが良い。
これですべての段落を読み終えた。あとは各段落のキーワードを使って要約を作ればOKだ。
まずは自分で書いてみよう。
このとき必ず、
- 「情報の過不足がないか(特に不足がないか)」
- 「論理構成がおかしくないか(因果関係などが合っているか)」
を必ずチェックすること。書けたら、以下の解答例と比べてみてほしい。
ここまでじっくり読み込んでくれてありがとう。
長文読解の考え方は、どうしても一度解説を読んで理解しただけで体得できるものではない。このページをブックマークやホーム画面に追加して、何度も読み込み復習してもらえれば、と思う。もちろん2024年度の解説もあるので、こちらも要チェック。
解答例
「現代では時間不足が人々を悩ませている。購買力の増加や携帯電話依存、余暇の選択肢の増加が、心身ともに不健康な状態や生産性の低下を引き起こしている。」(72字)