【過去問解説】2024年度 東京大学 英語 大問1 (A)

【過去問】東京大学

2024年度 東大英語の解説です。

今回は大問1 (A)を、パラグラフリーディングで長文読解していきます!

長文の読み方の基礎を確認しながら、じっくり読んでいきます。

  • 解答例だけささっと確認したい人
  • 単語・文法力不足で、そもそも正確に英文が読めない人

には適さない内容となりますが、逆に

  • 日本語訳はできるけど、なぜか問題が解けない人
  • 長文読解を極めたい人

など、長文読解を得意にしたい場合はぜひ腰を据えて取り組んでみてください!(そもそも英文の日本語訳ができないという方はこちらの勉強法をCheck)

著作権の関係上、問題そのものは載せていません。インターネットで過去問を手に入れてもいいですし、赤本があれば読みづらかった文法箇所も全訳でチェックできるので、そちらを用意してもOKです!

問題は手元に用意してもらえたでしょうか?それでは解説ノートを見ていきましょう。

2024年度 東京大学 英語 大問1 (A)

◎大問1(A)のキホンの考え方:段落ごとの内容・キーワードを見抜く!

→段落ごとに内容を掴んで読むと、

・要約なら…減点につながる情報の過不足をなくすことができる

まずはパラグラフリーディングを駆使して、ざっと長文の内容を通しで読んでいく。いったん理解してしまえば、読み終わった段階で書くべき内容が決まっているはず!

ちなみに今回の「24年度 大問1(A)」は、各予備校の解答例があんまり良くないし、内容・書き方も結構割れている。(当ブログの解答例はおそらくYゼミに一番近いと思われる。S台&K合の解答はただ後半以降を日本語訳にしただけと感じるが、その内容で合格した人も当然ながら多数いると思う。当ブログで言う「長文が読める・読めない」というのは、あくまでも問題を理解しやすくするための1つの考え方であり、必ずしも合格・不合格の答案作成に直結するわけではないと思って読んでほしい。)

・筆者がどういう意図でこの文章を書いたのか?

・東大は受験生に結局どんな論点を読み取ってほしいのか?

このような批判的思考を持って読むことができれば良問だが、逆にいえば漫然と読んだら何パターンも解答が作れてしまう問題なので注意したい。

読み方のカギとなるのは「新情報の提示の仕方」

今回はこれを追っていくと、筆者の意図が伝わってくるはずだ。

第1段落

まず第1~2段落全体をざっと俯瞰して見たい。

「There is no doubt~」から文章が始まっているが、その後は特に「However」などの逆説表現が見当たらない。

つまり、第1段落1行目からいきなりすぐに作者の立場表明に入っていると理解してよいことがわかる。冒頭に譲歩パートの挿入がない分、すでに要約に必要な情報収集は始まっているので気は抜けない。

1行目の最後に「corporate propaganda」という新情報の単語が出現する。これが今回のテーマであることは間違いない。そして、その直前で「one of the major issues(主な争点の1つ)」という言い方をしていることからも、作者はこのテーマに対して批判的な立場をとっていくことも認識しておきたい。

ちなみに「propaganda」は必須単語。世界史を勉強していれば、第二次世界大戦あたりで登場する用語でもあるので、受験生としては日本語訳だけでなく、背景知識としての歴史的な概念も押さえておきたい。

2行目からは、宣伝広告が日常のあらゆる媒体・場面に現れていることが示される。

そして最終的に「広告産業(業界)」を、その出所として挙げている。 また、これはアメリカにとどまらず、世界のいたるところでも同じことが起きていると指摘する。

まとめると、この段落で押さえたい情報は以下。

  • ・企業の宣伝は現代米国で社会的な争点になっている
  • ・宣伝広告は日常生活のあらゆる場面にまで広がっている
  • ・その宣伝の根源となっているのは広告産業

特に、「作者が宣伝広告に対し批判的な立場をとっている」ことを理解しておかないと、以降の意図が掴みにくくなっていくので注意したい。

第2段落

所有冠詞「Its」は必ず何を指しているのか確認しよう。当然、今回は単数の「the public relations industry」である。

つまり第2段落では、広告業界について詳しく説明されていくと考えておこう。

次に、引用符「control the public mind」が登場する。これが創始以来、常に「広告業界の目指すゴール」ということだ。

ところで通常、引用符に囲まれた単語は「作者が特定の意図を持って意味を付与している単語やフレーズ」を表す。今回の場合、なんとなく言いたいこともわかるような気もするが…、この場では安易に訳出しない我慢が必要。「public mindって何よ?」と疑問を持ち続けながら、丁寧に説明を読み取っていこう。そうすれば、どういう事象を指すのかおのずとわかるはずだ。

すると、段落中盤にほぼ同じ形である「control people’s minds」という表現が出てくるので、これが言い換えであり、先ほどの引用符の説明であることがわかる。

つまり、「人々の心や考えをコントロールすること」が広告業界の狙いということである。

「人の心や考えをコントロールする方法」としては次の行以降で「force」や「violence」の記載もあるが、これは段落前半の「freedom」や「rights」を重視する民主主義的な法治国家とは真逆の概念である。

つまり、力や暴力を用いて人の考えを操ろうとすることは、実際にその数が減少してきているだけでなく、現代ではそもそも受け入れられがたい方法であると考えてもよいだろう。

第3段落

ここでは、広告業界の先駆者であるEdward Bernaysという人物について語られる。1920年代という時代も意識しておきたいところ。

この段落では、「liberal」「right wing」といった政治的観念が多用される。当然この部分の読解には、それらの用語理解が欠かせない。もし必要であれば、先に政治経済の教科書などを読み込んで背景知識を確認しておくこと。

この段落の流れは、こうだ。

  1. Bernaysは自由主義者で、リベラルな人間だ
  2. Bernaysは広告業界の手引書を書いた
  3. 作者は保守主義(右派)の話はしていない
  4. むしろ左派の話である
  5. 彼の書いた本は「プロパガンダ」と呼ばれている

どうであろうか。3と4の部分だけ、やたら話が浮いて見えないだろうか?

この時点で論理が繋がって理解・納得できている場合は、ぜひ次の段落まで読み飛ばしてほしい。

さて、実はここで先ほど、「propaganda」という単語について

背景知識としての歴史的な概念も押さえておきたい」

と言っていた話が繋がってくる。

「プロパガンダ」は、ヒトラー下のナチスが戦争やユダヤ人差別を正当化するために用いた宣伝・喧伝のことであり、第二次世界大戦以降の世界では、(主にマイナスの)政治用語としての意味合いを持つ単語である。

ナチスというのは、本来的な意味では保守政党ではない。しかしその愛国主義・民族主義的な性質から、近年「ナチズム」や「ネオナチ」と言えば極右を指すことが増えている。当然、ここでネイティブの読者であれば、

  • ナチス=右派
  • プロパガンダ=右派の概念

という風に考えが繋がるだろう。

つまり、自由主義を信奉するアメリカ人からしてみれば、先の1~5までの流れを読んだときに、このような驚きを経験する。

「広告業界は、まあリベラルな人間たちが作っているよね」

「ということは当然、右派じゃないよね」

「その業界が『プロパガンダ』という本を出版しているの!?」

そして、察しのいい人間はさらにこのようにも思うかもしれない。

「もしかして、自分たちが普段何気なく大量に接している『広告』って、ナチスのプロパガンダのように実はよくないものなの…?」

このように、溜めに溜めた挙句、最後に驚きの新情報をバーン!と提示することで、効果的に意見を伝えることができる。

日々無邪気に宣伝を享受する読者に対し、揺さぶりをかける作者の意図が、この流れから読み取れるだろうか?

第4段落

ここまで読んだ時点で、「mind people’s mind」をゴールとして経済活動を行っている広告業界が、なんだか胡散くさく見えてこないだろうか(というか、少なくともこの英文を読んでいるときに限定しては、ぜひそう見えてほしい)

第4段落1行目の「the conscious manipulation of~the messes」は、まさに「control public mind(もしくはpeople’s mind)」と同義の事象を指す。やはりこれが業界の命題なのだ。

この人心コントロールについて、Bernaysは「we must do this」と強い意見を述べている。

英文では、意見を述べたら次に必ず理由が説明される。

では、一体なぜBernaysはそのように考えているのだろうか?

  •  民主主義だから(=暴力的手段には出られないから)
  •  現在の権力構造や富(の分配構造)を維持する手段だから

である。

「え、やばくない…?」

「自由主義どころか、むしろ保守的じゃん…」

と思っただろうか。

ここでも先ほどの「新情報を最後に出す」技法が使われている。

①の「民主主義」で読者を安心させておいて、次の②でちょっと(かなり)嫌な感じの情報を出す。すると、読者の心には強い衝撃が残るのだ。

ちなみに、中には

「『wealth』としか書いていないのだから、必ずしも現状の貧富の差や格差構造を肯定しているとは限らないじゃん!むしろみんなが等しく豊かになることを望んでいるのでは?」

と、単語の意味を捉える人もいるだろうが、andで並列になっている(1920年代時点での)現在の」「権力構造」がすでに不平等なものであり、その「維持」を目的としていることからも、Bernaysの発言に「格差を維持するべき」という意図は当然含まれているものと考える。

第5段落

さて、ここで魔の第5段落である。

実は、冒頭で述べたように各予備校の作成した解答例が分かれているのは、この「第5段落の内容をどのように要約へ落とし込むのか」という点なのだ。

文章量としては少ない段落なので、簡単に内容をまとめることはできる。要は

「『プロパガンダ』という言葉は、(ヒトラーによって悪用されたので)第二次世界大戦後は意味が変わってしまい、使われなくなった。なので、今は違う言葉になっていますよ」

ということである。

本当にこれだけの内容しか書かれていないのである。

しかし、先ほどまであれだけ強い印象操作テクニックを用いて書かれていたのと同じ英文なのである。であれば、作者の意見はどこにあるのだろうか。少なくとも、

「ふーん、今はもう『プロパガンダ』なんてヤバそうな名前ではなくなっているんだから、特に問題ないか!」

ということではないだろう。

ここで、今回の肝である「新情報の提示方法」を整理したい。

  • 新情報は、話のいちばん最後に来る
  • 「読者をドキッさせ、印象に強く残す」意図がある

上記の手法を、作者はここまで何度も用いてきている。

しかし今回の第5段落の最後はなんと、「新情報となる単語がない」のである。「other terms」という一般的な名詞の後ろに、同格で新情報が来てもおかしくないのだが、それが「ない」。

実は、「ない」ことにこそ意味がある。

かつての「プロパガンダ」、今は何という名で呼ばれているか、我々は全員もう知っているはずだ。

そう、「宣伝」「広告」である。

このようにあえて情報を書かず、読者に想像させ、その言葉を強く意識させるというのも、1つの効果的な伝え方だ。

ということは、読者に考えてほしいことはおそらく、先ほどの

「ふーん、今はもう『プロパガンダ』なんてヤバそうな名前じゃなくなっているんだから、問題は特にないな!」

ではない。むしろ、逆だ。

「名前が変わっても、広告の本質は元の『プロパガンダ』のままなのだから、我々もその取り扱いや受け取り方には十分注意しなければならないな」

ということである。

作者が苦心しながら伝えたこの意図を要約に含めないというのは、たとえ英語が正しく読めていても話が読めていることにはならないのではないかと、どうしても考えてしまうのである。

さて、これですべての段落を読み終えた。あとはキーワードと作者の主張を元に要約を作ればOKだ。

まずは自分で書いてみよう。

このとき必ず、

  • 「情報の過不足がないか(特に不足がないか)」
  • 「論理構成がおかしくないか(因果関係などが合っているか)」

を必ずチェックすること。

書けたら、以下の解答例と比べてみてほしい。

他所の解答例が割れているので、今回はこのブログが一番攻めていく気持ちで、攻撃力高めの解答を作ってみた。

だが、ここまでついてきてくれた学習者であれば、以下のような書き方になっても内容自体に納得はいくのではないかと思う。

ただし、解答としてそんなに攻めなくていいよという人は、同じ読み方のYゼミの解答を見てみることをおすすめする。

ここまでじっくり読み込んでくれてありがとう。次のページでは大問1(B)について解説をしているので、ぜひ続けて読んでもらえると嬉しい。前年度の解説もあるので、やりこみたい人は要チェック。

長文読解の考え方は、どうしても一度解説を読んで理解しただけで体得できるものではない。このページをブックマークやホーム画面に追加して、何度も読み込み復習してもらえれば、と思う。

解答例

「日常に氾濫する宣伝広告は、民主主義国において暴力を用いず大衆の意見を操り、保守的体制を維持するためのプロパガンダとして誕生し、名称は変わってもいまだに問題だ。」(79字)

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